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特守の余韻

「ほら、そこっ。下がるなって何度も言ってるだろう」

コーチの檄が飛ぶ。容赦なく外野にボールが上がる。

電車が止まるような風の強い一日。ノックで上がったボールは風で力なく左右に揺れる。

「こらっ、ちゃんと取れっ。最後までボールを追う、ほらもう一回だぞ」

外野手の特守は昼時を過ぎても終わる気配を見せなかった。
メンバーは怪我で調整している選手と調整中のベテランとルーキーが二人。

特にしごかれているのはもちろん、ルーキー達。

終わった後、ボールの片付けをしながら、二人のルーキーはコーチに見えないところで小さく拳と拳を合わせた。

周りが次々とグラウンドを後にする中、一人のルーキーは荷物を広げてスパイクについた土を丁寧に払った。
スプレーをかけ、丁寧に磨く。時々日の光にすかしながら、丁寧に丁寧に。

時折、磨いた靴を眺め、満足そうな笑みを浮かべる。上手く磨けたようだ。次にもう片方のスパイクも磨き、丁寧に袋にしまう。

次はグラブ。球団のマスコットが刺繍された黄色いグラブにオイルをつけながら少しずつ磨く。

ポケットを叩いて少し首をかしげ…不満そうな溜め息をつく。

「グラブ…換えようかな」

どうやらグラブの磨きには満足がいかないようだ。それでも納得がいくまでタオルでこすって隙間もゆっくりと拭いていく。グラブをはめて手のひらを開いたり閉じたりしながら柔らかさを確かめているのだろうか。

しばらく、繰り返し。時折、手でグラブの外側を動かしながら。

最後にボールをグラブに収め、ぎゅっと閉じて、丁寧に袋にしまう。

「今日も一日ありがとうございました!」
と道具につぶやきながら。

「さぁ、明日からまた試合がんばろう」

プロになると用具は頼めばすぐにもらえると聞いていた私は、一人居残り、道具を磨く彼の姿を見てなんだかとてもうれしくなった。

小さい頃、野球がやりたくてグラブを買ってもらった。うれしくて枕元に置いて、汚いと母親に怒られて。
キャッチボールしたら必ず磨いていたっけ。そんなことをふと思い出した。

ルーキーの彼もきっと原点は同じなんだろうな。

小さい頃から練習が終わる度に道具を磨いてきた。毎日毎日。そしてこれからも磨き続ける。

そんな毎日の先にある一軍のグラウンドを目指して。

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